《父の物語》ひまわりの記憶
『 Sunflower 』watercolor painting by NORi
ほろ苦さとひまわりと私。
【想い出の花】というのはありますか?
人それぞれに
好きな花や
想い出がよみがえる花が
きっとあるのではないでしょうか。
ひまわりは
私にとって想い出深い
特別な花です。
どこかほろ苦く
それでも勇気をくれた花でした。
当たり前の風景が消えるとき
私が幼い頃に住んでいた昔の家にはひまわりが咲いていました。
小学生になった頃、
家の門のすぐ横に、
母がひまわりを植えたのです。
ひまわりはすくすく育って、
いつしか私の背を追い越し、
いつも上から私を見守るように
そこで咲いていました。
朝、学校に行く時も、
帰ってきた時にも、
家の門の横には
大きなひまわりがいつも咲いていました。
そんな当たり前の風景が
消えるときがやってきました。
小学校の3年生で
引っ越すことになったのです。
その日も、
ひまわりはそこで咲いていました。
あの場所へ還りたい!
引っ越して少し経ったある日。ふと、
「昔の家はどうなっているのだろう?」
と無性に気になり始めました。
そこで、
父に頼んで昔の家へ
車で連れて行ってもらうことにしたのです。
昔の家は新しい家から
それほど遠くはありませんでした。
車で少しドライブすると
すぐに昔歩いた街並みが近づいてきました。
私は懐かしさで胸がいっぱいになりました。
とうとう
昔の家が見えてくると
父はゆっくりと
車のスピードを落としてくれました。
『昔の家はどんな風に変わっているだろう?』
『どんな人が住んでいるんだろう?』
わたしの家は・・・
わたしの家は・・・
車の窓ガラスに
顔面をベッタリと貼り付けて、
わたしは
一部始終を逃さぬように
眼を凝らして
昔の家を車の中から見ました。
そのまま
ほろ苦い気持ちに飲み込まれそうになりながら
ゆっくりと
家の前を通り過ぎていくのでした。
ほろ苦さの後にやってきたのは・・・
その時です。門の横に、
あの、ひまわりを見つけました。
あの、
ひまわりが咲いていたのです!
わたしは、はっとしました。
『あぁ、
今ここに住んでいる家族は、
きっと幸せ。』
そう思いました。
あの時の幼い私は、
大切なものを失っただけではないはず。
素晴らしい何かにつながっているはず。
と、
確認したかったのかもしれません。
わたしが守られていたように、
『きっと、あのひまわりが
今ここに住んでいる人達を
守ってくれている。』
こう思えた瞬間、
新しい家で
新しい生活をはじめようとしている
自分自身をも誇りに思えるような
そんな気持ちになっていました。
帰りの車の中では、
もう別のことを考えていました。
その古い家の私の部屋には
小さな押入れがありました。
その天井のベニア板をズラすと
秘密の屋根裏につながっていました。
『今住んでいる人に
そのことをこっそり教えてあげたら、
きっと驚くだろうな。』
そんなことを思いながら
幼い私は少しにやけながら
穏やかな気持ちで
流れていく景色を見送り
父と一緒に新しい家に帰りました。
