絵の探求と日々のあれこれ

《母と兄の物語》お雛様と怪獣。

    
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《母と兄の物語》お雛様と怪獣。

『お雛様を飾りましたか?』

『お雛様を飾りましたか?』

– そう聞かれて、
一気にある風景がよみがえりました。



それは、
小学生になったばかりの頃の記憶です。


雛祭りの時期が近づくと、
いつも母がお雛様を飾ってくれました。

納戸から雛人形の入った木箱を取り出して
飾る準備をする母を見るのが大好きでした。



雛人形は和紙で包んであり、
和紙を開くとさらにお顔には、

埃がかぶったり傷がつかないように
柔らかい布がクルクルと巻きつけてありました。



母の横顔

お殿様とお姫様が持つ付属品なども
一つ一つ和紙で包んであります。


毎年毎年、
大切に保護され、保管されていたんだと思うと

母の愛情を感じて
とてもウキウキしました。



丁寧に開梱する母の横顔を見るのが
大好きでした。


そんな雛祭りの時期に
幼い私にとっての大事件が起きました。



そびえ立つ、七段飾り

その日も、

いつものお友達のお家に
遊びに行きました。


いつもの和室に足を踏み入れると、

荘厳な雛段が飾られていました。


七段飾りでした。


私はその美しさに圧倒され

その豪華絢爛な世界に
一瞬で魅了されてしまいました。



タイムスリップ

雛壇の敷物である真っ赤な緋毛氈は
まるでレッドカーペットのように長く、

三人官女や五人囃子が並び、
お花も綺麗に飾られていました。


金色の装飾に彩られた
調度品の数々、

牛車もいます。


今にも人形たちの話し声や笑い声、
楽器の音が聴こえてきそうです。



穏やかな春の日射しの中で
そんな美しい七段飾りを眺めながら

お友達と一緒に美味しいお菓子を頂き、
本当に楽しい楽しい時間を過ごしたのでした。



涙が溢れて止まらない!

それは本当に見事な七段飾りで、

本当に夢のような時間でした。


うっとりと夢心地のまま、

幸せな気持ちに包まれて
家に帰りました。



家についてすぐに

和室に飾ってある
我が家のお雛様に会いに行きました。


すると、なぜか、
私の目から大粒の涙が溢れ出しました。


次から次へと涙が溢れて
止まらないのです。



心の摩擦

そう。


私の家の雛壇は、

お殿様とお雛様と、
ぼんぼりが可愛い
一段の親王飾りだったのです。


お祝い事には
奇数がよいとされているそうですね。


雛段は七段、五段、三段、
そして、一段(親王飾り)が基本形。



一段である。という事

幼い私は、
その時、初めて、

一段である。
という事が

どうしても納得がいかなくなったのでした。


我慢すればするほど涙が溢れて

もう自分でも
止めることが出来なくなっていました。


『わたしも七段飾りが欲しい!!!』



涙が止まる。

涙が止まりました。


どのくらい泣いていたのか
覚えていませんが、

涙が止まりました。



それはなぜかというと、

目の前に
世にも奇妙な雛段が現れたからです。



変化球

お雛様が置かれたタンスの前には
家中の椅子が集結し、

さらにダンボールや箱が重ねられ、
階段状に並べられていました。


近づいてみると、

箱の上には 2cm くらいの小さなものが
ずらーっと並んでいます。


当時、
小学校の男子生徒の間で流行っていた

消しゴムでできた自動車や怪獣たちでした。



集結のひな壇

ウルトラマンも勢揃いで並んでいます。
奇跡のコラボレーションです。


いつも私をイジメてばかりいた三歳上の兄が、

普段私には絶対に見せない、触らせない、
秘蔵コレクションをありったけ並べて

私に雛壇を作ってくれたのでした。



兄は誇らしげに言いました。

『ほら、みてごらん。
こんなにいっぱいいるぞ。すごいだろ?』



納得の時間

わたしは静かに頷きました。

わたしの目はきっと
好奇心に溢れ
キラキラしていたことでしょう。


『確かに、すごい。』

間違いなく、そう思わせる迫力でした。


もはや泣いている場合ではありません。


普段、半泣きで『見せて~』と頼んでも
絶対に見せてもらえなかった
兄の秘蔵コレクション。


大変興味深いです。

触ったらパンチが飛んできます。



新境地

そんな緊張感の中で、
わたしは一つひとつ覗き込みました。

すごい。。。


わたしの涙はすっかり引っ込んでいました。


それ以降、
外で何段の雛壇を見ようとも、

わたしの心の中からはすでに
羨ましいという気持ちは消え去っていました。



お雛様も素敵だけど、、、



『怪獣も凄いんだよ。』